住みやすさを目指す管理規約
 維持管理の面からマンションと戸建住宅の違いを一言でいえば、合意形成の必要性の有無である。
 戸建住宅の場合は所有者の意志によって、どのような維持管理でもできる。オンボロになって倒壊寸前というところまで放っておくこともできるし、何年経っても新築同様ピカピカにしておくこともできる。しかし、マンションの場合は、区分所有による専有部分の他に共用部分というものがあるので、各人がそれぞれに自己の意志を貫徹するわけにはいかない。どうしても区分所有者の合意が必要になる。1棟だけの場合でも、1階の人はエレベーターを使わないとか、最上階以外の人は屋根防水に関係ないとか、最初のうちは随分と勝手なことを言う人が多くてもめることが多かった。団地のように多数棟で構成されている場合には、ある棟だけの雨漏りがひどいとき、そのための修繕費用はその棟の居住者だけで負担すべきか、あるいは団地全体の積立金の中で賄うべきものか、いろいろと問題になるところではあるが、これらは法律的に決まりはない。
住民の合意で決めるべきことである
 だからこそ、管理規約でこのような場合の対処の仕方をしっかりと決めておかなければならない。
住民の意見を集め、話し合いによって全体の利益や住みやすさ、有効な人間関係の成長を目指すことは、民主主義の根本原理である。というよりも、自由を重んじる人間の生き方として当然のことではないだろうか。
 日本の社会では、昔から「お上」意識が強く、何事も定めに従おうとする傾向がある。この点、アメリカでは新しく発見した大陸へ大勢の人が押し寄せて急速に社会が構成されたせいか、そこで生れたものは「お上」意識ではなく、みんなの話し合いによって共通のルールを定めようという意識である。
 マンションが生まれる以前の日本の住環境には、「お上」意識が強かったと言える。しかし、マンションは新大陸に一度に大勢の人が渡ったようなもので、これまでの日本の住居の歴史の中には一度もこのような体験をしたことがなかった。そのために、「お上の定め」もいまだに決まっていない。 ここは、すべからく住民の合意によって、それぞれに住みやすい環境を築くべく管理規約を定めるべきであろう。
 管理規約の制定・改訂・運用は、小さな国家における憲法の制定・改訂・運用だと考えることができるだろう。
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