竣工引渡し図書としての修繕計画
 長期修繕計画は本来、建物新築時に作られるべきものであり、建物と一緒に施工者から注文者に引き渡される「竣工時引渡し図書類」の一部であるべきとも言える。なぜなら、新築にあたっては、その建物のあらゆる数量は「数量調査」として綿密に計算されており、この数量がわかっていないと、工事ができないからである。したがって、将来何年目かに塗り替えられるべき鉄部塗装の面積も、外壁の面積も、共用廊下の電灯の数もみんなはっきりわかっているから、この時期に長期修繕計画表を作るのは訳もないことである。しかし、竣工後何年か経って長期修繕計画を作ろうとすれば、数量調書がないから、まず設計図を広げて各種の数量計算から始めなくてはならない。
 現在のマンションでは、設計図や竣工図が満足に保存されていない場合が多い。このため、修繕計画表を作るのに莫大な費用と時間がかかるのである。数量さえはっきりしていれば、修繕の時期は多少ラフであってもかまわないことは前述したとおりである。

 以上、長期修繕計画についてまとめると、次のような注意事項をあげることができる。
1. 長期修繕計画書は竣工時引渡し図書類の一部として義務づけること。
2. 計画は計画であって、状況に応じて常に見直しが行なわれるべきである。計画に従って毎年工事を行うのは愚の骨頂である。
3. 修繕計画表と現状を照合して修繕の実施時期を決定する場合は、専門家(建築家)が関わり、適切なアドバイスをするべきである。鉄錆など素人目に見てもわかるところはよいが、設備機器になると素人ではチンプンカンプンである。今日も動いているから大丈夫だと思っていると、ある日突然停止して大騒ぎになる。設備機器の専門家に定期点検を頼んでおけばこのようなことにはならない。
 
 なお、ここで設備機器の点検について、注意点を書き添えておく。一般に、「管理会社」と称するところに設備の定期点検を一括依頼している管理組合が多い。ところが、マンションがこの20〜30年の間に百数十万戸も建てられたのにつれて、管理会社もまた雨後の筍のように輩出した。中には、単に人を集めただけの管理会社もあり、仕事に比べて、技術者の数とレベルが十分でないところも少なくないという。だから設備機器の定期点検なども、ただのぞいて見るだけという場合もあるのだろう。
 こうした問題に、建築家・設計者はいつまでも腕を拱いていてよいのだろうか。管理組合としては、信頼のおける建築家に顧問を委嘱し、管理会社や設備業者を正当に評価してもらう方が好都合のはずである。有能な建築家は常に有能な構造家や設備家とチームを組んで業務を行っている。だから信頼のできる建築家1人に委嘱することは、各分野でのエキスパートを選りすぐったチームに委嘱することと同一である。
 これを建築家の側からいえば、今後はこのような社会的要請が増える一方であるから、これに応えることができるように、
どんな建物でも正確に状況が把握できるよう技術の研鑚につとめなければならない、ということになる。
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