修繕計画を作成する意義
 壊れたから直すという場当たり的なものではなく、計画的に各部位の劣化状態を監視して、時期を失せずに修繕する、というのが「計画修繕」であり、この計画を「修繕計画」という。修繕計画には、現在のさし迫った問題に対処するための短期的な計画と、5,6年先まで見越して修繕部位を予想し、それに対する資金計画を立てる「中期修繕計画」がある。それにもう1つ、15年とか20年くらい先に訪れるであろう大規模修繕、例えば、エレベーターの取り替えとか、屋根防水のやり直しなども射程に入れ、それまでに発生するであろう小修繕や中規模な修繕も、予想される限りすべてを列記して資金計画を立て、それに基づいて修繕積立金の額を決める「長期修繕計画」がある。
 
長期修繕に計画については、現在のマンション居住者は大変な誤解をしているようである。 それは、「長期修繕計画によると、来年度は築後10年目で、屋根防水の全面やり替えの年で あるから、そろそろ業者を呼んで見積りを取ろう」といったように、現実に防水層が劣化しているかいないか、雨漏りがひどいかどうかを考えることなく、機械的に、盲目的に計画を実行しようという態度である。計画はあくまで計画である。10年経って、少しも雨漏りがなければ、防水層はまだ健全な証拠であるのだから手をつける必要はない。修繕計画表の見直しを行なって、屋根防水の修繕項目を5年くらい先に延ばしてもよいのである。

 修繕計画表を作成する目的は、 
1. その時(修繕時期)になって修繕費の捻出に困ることがないように、毎月修繕準備金を積み立てておかなければならない。その積立金の金額決定の目安とするために計画表を作成する。
2. 計画表が作成してあれば、ある年度やその前後に書き出してある項目を忘れずに点検することができる。そして、点検して、ある程度の劣化が認められれば予定通り修繕するし、大して傷んでいなければしばらくは修繕を見合わせることになる。

 以上、この2つの目的のために修繕計画表は作成されるのであるが、この表の記載どおりに実施しなければならないと言うものではない。あくまでも計画であり、目安である。計画を作成する時には、どうしても大事をとってしまい、10年は手入れ不要だと思っていても、つい安全性を見て8年目にしておこうか、ということになる。前述のように「屋根防水10年」ということが常識化しているようだが、とんでもない話である。公団や公社、ゼネコン等が10年間保証しますというのは、11年目に駄目になるということではなく、15年くらいは間違いなくもつから10年間は保証しても大丈夫という心理なのである。鉄部の錆についても、新築時の設計図書で塗装仕様がきちんとされ、それに従ってまじめに施工すれば、5〜10年は大丈夫なのである(年数に幅があるのは仕様の程度に差があるからである)。しかし、一般的には大事をとって3年目くらいに塗り替えを予想して修繕計画を立てる。すると素人は3年しかもたないと思う。また、あまり良心的でない業者はかろうじて2年半か3年もつようなお粗末な塗り替えをして、お安く勉強しましたという。このような悪循環がいつの間にか定着しかかっている。冒頭でも述べたように、建築の品質、特に耐久性に関して歪められた常識が、世間並びに建設業界に定着しつつあると嘆いたのはこのことである。
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