「築後10年」の迷信
 しかしながら、この「修繕ブーム」は、建築界にとってたいへん重大な問題を抱えていることを 私はここに強調したい。というのは、このブームのお陰で建築の品質、特に耐久性に関しての歪められた常識が、世間並びに建設業界に定着しつつあるからである。
 今、「築後10年」というのが合言葉のように使われている。「築後10年にもなるんだから、雨が漏っても仕方がない」とか、「もう10年経ったから外壁のやり替えをしなきゃならない」といった具合である。マンション居住者は素人だから仕方がないとしても、プロである防水業者や塗装業者までが、「もう10年経ってますから屋根防水のやり替えをなさった方がいいんじゃないですか」とか、「なにしろ入居されてからもう10年も経っているでしょう」などと言って改修工事を勧めているのには驚く。
 近視眼的には需要の掘り起こしとか、積極営業などと格好よく言えるのかも知れないが、その実は業界の信用を自ら放棄していることに気付かないのだろうか。
 この「修繕ブーム」以前には、
わずか10年で屋根防水がダメになるとか、5,6年で外壁に錆鉄筋が露出(爆裂)するなどという話は聞いたことがなかった。そんなことになったら、施工者は 大変恐縮して「すみません。無償で修理しますから、どうかこんな事故はなかったことにして下さい」というのが業界の常識であった。施工者としても世間の信用が第一で、5年や10年で自社の作品に何か問題が生じれば、保証書の有無にかかわらず直ちに徹底的な対策を講じるのが当たり前であった。
 ところが、デベロッパーという仮親的な施主、一時的な所有者が現れ、竣工引渡しを受けた後に不特定多数の人に切り売りするという、これまでにないシステムが生まれた。分譲が済んでしまえば、建物の所有権は1人のデベロッパーから多数の区分所有者に移る。そうなると区分所有者は、もはやデベロッパーにとってもゼネコンにとっても、魅力ある「次のお客様」ではなく、単なる「用済みの人たち」となるから、対応の態度がガラリと変わってしまう。
爆裂・・・・・・建築界になかった「爆裂」(あるいは鉄筋爆裂)というヘンな言葉が、マンションの 修繕ブームとともにかなり広く使われているようだ。定義付ければ「建物外部の、かぶり厚さの少ない鉄筋が雨水の浸入等のために錆びて膨張し、その結果、かぶりコンクリートが剥落して赤錆びた鉄筋が露出している状態」ということになろう。「錆鉄筋露出」と言う方が適正な言葉だと思うのであるが、いずれにしても原因は、かぶり厚さ不足という施工不良である。
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