第14回  欠陥建築の手直しを拒否する施工者の言い訳
施工者のなかには、建築物に明らかな欠陥があっても手直しを拒否する悪徳業者がいる。
彼らが欠陥建築の正当化に利用する耐震診断基準は手直しが必要だ。
悪徳業者に利用されないように欠陥建築の安全性について軽々しい発言は慎む。

建築物の欠陥が明らかになった時の施工者の対応は、大別すれば次のようになる。
1. 自発的に十分な手直しをする。
2. 行政の指導や入居者の団体からの指摘を受けて、やむを得ず手直しを行う。
3. へりくつをつけて欠陥の存在を認めず、手直しを拒否する。
このうち、3.の対応を見せる施工者がしばしば用いるへりくつが、【建築基準法や日本建築学会の規準には適合していない部分が確かにあるが、耐震診断基準には適合しているので問題ない】というものだ。

耐震診断基準に適合なら問題ないか
【既存のコンクリートの耐震診断基準】が施工不良による欠陥建築の正当化に利用されていることは重大な問題である。
そもそもこの基準は、竣工後に建築基準法が改正されたために既存不適合となった建築物、それも学校や公会堂、病院など、災害時に避難場所として使われる可能性の大きい公共建築物を主な対象に作成されたものであるはずだ。
それが、公共建築物ではない建築物、それも不良鉄筋を使用したために壁もスラブもクラックだらけというような建物でも、OKになるとすれば、そして、その結果が欠陥建築を正当化することに利用されるとすれば、やはり問題である。耐震診断基準を手直しするか、さもなくば適用範囲を明確にすべきだ。
これまで何度も述べてきたように、日本の裁判官は建築基準法に対しては【我関せず】とシラを切ってばかりいる。どんなにひどい基準法違反の欠陥建築であっても、8割方でき上がっていれば、物財としての存在価値を認める方針のようだ。
そして、多少の欠陥は金銭に換算すればいいという考えなので、【要するに使用鉄筋が指定の規格品ではないということなのだから、規格品と無規格鉄筋の差額として○○円を建物価格から差し引くだけで、補修工事は必要ない】という論理も、裁判官は何の疑いもなく受け入れてしまう。
行政もまた逃げ腰の姿勢だ。本来なら、建築確認の申請者が工事の異常を建築主事に訴え出た時点で、速やかに事実を調査し、違反があれば是正命令を出すべきところであるが、実際にはなかなか調査を実施してはくれない。それどころか、なかには裁判が始まってから【本件は係争中であるから、行政としては軽々しい発言はできない】と言う建築主事もいるのだから、あきれるばかりだ。

一人歩きをする大学教授の検討書
手直しを拒否する施工者はまた次のような言い訳もよくする。
【有名な大学教授に検討を依頼して、問題ないとの結果を得ている】。
建築基準法に違反していることが明白で、日本建築学会の規準にも適合していない建築物の安全性について、社会的に影響力のある大学教授がこうも軽々しく発言するのは、問題がある。というのも、大学教授がお墨付きを与えた検討書は必ず一人歩きをするからだ。
例えば、不良鉄筋の使用が問題となったある建物では、梁に大きさが梁せいの半分もある貫通孔が間隔をあけずに設けられていた。ところが施工者から調査を依頼された大学教授は、この梁の耐力について、実際に使われたものとは全く異質なコンクリートを対象とした実験結果を基に、【せん断破壊にはつながらない】とのレポートを提出した。
また、別の大学教授はこの建物の安全性に関する検討書に下のような結論を書いた。
大学教授にとってみれば、【断りきれない筋からの頼みで、単に学問的な検討をしただけ】なのかもしれない。しかし、不良施工を平気で行う悪徳業者が抱える弁護士は、まず間違いなく、検討書のなかから自分たちに有利な部分だけを切り取って自説を主張する。ここまで考えれば結果として悪徳業者の手助けになるようなことはできるはずがない。
大学教授に限らず、一般の技術者の方々にも、悪質な不良工事の応援になるような言動は慎んでいただきたい。

結論
本建物は設計・施工上、若干の問題点が見られる。それらのうち、重大な事項を挙げれば、
1. 一部の梁にせん断破壊先行型のものがある。
2. せん断補強筋に、規格を下回る細径の鉄筋が用いられている。
3. スラブを中心にひび割れの発生が著しい。
これらの問題点を中心に、本建物の健全度を検討した結果、
1. せん断破壊の先行する、短スパン梁を無視して建築基準法施行令にしたがって保有水平耐力を算定した結果、所要値を満たしている。
2. 既存RC建築物の耐震診断基準(日本特殊建築物安全センター)に準拠して、耐震診断(1次、2次)を行った結果、特に問題視されるような結果ではなかった。
3. スラブの積荷試験を実施した結果、耐力不足・変形の進行は認められなかった。
以上の検討の結果、本建物は万全の健全度を保持しているとは言い難いものの、この種の既存構造物の平均的耐震性能を有しており、スラブのひび割れ補修などの対策を実施すれば、使用可能であると判断される。
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