第15回  裁判に比べ迅速な建設工事紛争審査会
建設工事紛争審査会では、建設工事の請負契約をめぐる紛争の処理に法律と技術の専門家が当たる。
審査会はあっせん、調停、仲裁を行う。仲裁における仲裁判断は裁判の確定判決と同等の効力をもつ。
仲裁は裁判と比べて迅速に行われる。その分、費用もかからない。

建築トラブルの解決を公的機関を通じて図ろうとする際、一般の人がまず思い浮かべるのは裁判だろう。しかし、この裁判というものは案外厄介である。
まず建築にかかわる技術的な問題を裁判官に正しく理解してもらうことが容易でない。裁判官は建築の技術的な側面や建設業界の商慣習については専門家ではないからだ。
また、裁判は決着がつくまでに相当時間がかかる。通常は、法廷が開かれるのは2〜3ヵ月に1回くらい。このため判決が出るまで数年を要し、当事者の一方が判決に不満をもち、上級審に控訴・上告していけば、10年や15年はかかる。
そこで1956年の建設業法改正により、裁判に代替するものとして設置されたのが、建設工事紛争審査会である。
法律、技術の専門家が審査に当たる建設工事紛争審査会は行政機関に付置された特別の紛争処理機関である。建設工事の請負契約をめぐる紛争について、弁護士や公務員OB,1級建築士など、法律および建築技術の専門家が審査に当たり、迅速にして、しかも訴訟効果に劣らない解決を図る。
建設省(中央建設工事紛争審査会)および各都道府県(都道府県建設工事紛争審査会)に設置されており、原則として当事者双方の主張と証拠だけに依拠して、あっせん、調停、仲裁を行う。建設業者の監督や技術的鑑定等は一切しない。
また、審査会が扱う紛争は、当事者の一方または双方が建設業者であるものに限られており、設計契約や設計監理契約は対象となっていない。
欠陥工事や不正工事に設計者や設計監理者が無関係ということはないのに設計や設計監理が対象外というのはおかしなことだ。
建設工事紛争審査会の設置を規定した建設業法の改正は、建設業界の要望を受けて実施された。設計業界もこれに倣って建築士法の改正を国に働きかけ、設計・監理を対象とする紛争処理機関の設置を促するべきだろう。
建設工事紛争審査会は、先ほど述べたように、専門家が審査に当たって迅速な解決を図るのが特徴だ。そのために、法律と技術の専門家による総合審査体制をとっている。
その内訳は、東京都建設工事紛争審査会を例にとれば、法曹関係者40%,建築関係者(行政の技官OBも含む)42.5%,建築設備関係者10%,行政OB5%,土木関係者2.5%という具合だ。この数字は各行政庁ごとに異なり、また年度ごとに変動もある。だが、そう大きく変わらない。

早期に【確定判決】を得られる仲裁
審査会は建設業法に基づき当事者の申請によりあっせん、調停、仲裁を行う。申請者は事件の性質などを考慮したうえで、いずれかを申請することになる。ただし、仲裁を申請するには、当事者間の仲裁合意が必要だ。
あっせんは、担当役員(1人)が当事者の話し合いの場をつくり、双方の争点の整理などを行って、話し合いによる解決の方法に導くもの。通常は、解決に至るまでに【審尋】が3〜4回開かれる。
調停の場合は、担当委員が3人。法律1,専門1,行政1,法律1,専門2と、構成メンバーには必ず法律関係者が連なる。あっせんでは当事者を自主的な解決へ導くのに対し、調停では委員が和解案を作成して和解を勧告する。
もっとも、勧告は強制ではなく、いずれか一方が受託しなければ調停は不調となる。ここまでくると、審査会による仲裁を求めるか、新たに訴訟を起こすかの選択を迫られる。
仲裁になると、形は裁判に似てくる。裁判の判決に相当する【仲裁裁判】は、民事訴訟法第800条に【仲裁判断は当事者間において確定したる裁判所の判決と同一の効力を有す】とある。つまり、仲裁判断は裁判の1審判決と同じだ。ただ、これに不服だからといって、裁判のように控訴したりはできない。仲裁の手続きに瑕疵があれば別だが(この場合は裁判所で改めて争うことになる)、そうでなければ、いずれか一方が仲裁判断を履行しない場合には、他方が裁判所に申請して強制執行をさせることができるのだ。
ともかく、仲裁には技術に明るい専門家が必ず加わるため、委員の理解が早い。また、大体月に1回程度のペースで開かれるので、早期に解決が得られる。当然、その分裁判に比べて費用もかからなくて済む。
ただ、委員の人たちも様々で、積極的に発言する人もいれば、黙って当事者の言い分を聞く人もいる。当事者双方は委員の指名、さらに好ましくないと思う委員を排除指名できる。審査会から名簿をもらい、慎重に人選を行うといいだろう。
●審査会の紛争解決
担 当
委員数
方   法 効   果
斡旋 担当委員は、当事者の話し合いの場を作り、双方の争点の整理等を行い話し合いによる解決の方法に導く。 民法上の和解契約の締結
(民法第695条,第696条)
調停 担当委員が当事者の出頭を求めて意見を聞くことなどにより調停案を作成し、その受諾を勧告すること等により解決を図る。正当な理由なく出頭要求に応じないときは罰則が適用される。 同上
仲裁 当事者間の仲裁契約に基づき民事訴訟法等の規定により当事者を審尋し、必要な証拠調べや立ち入り検査などをして、仲裁判断を行う。 仲裁判断は当事者間において確定判決とどういつの効力を有する。
(民事訴訟法第800条)
●斡旋,調停の流れ
●仲裁の流れ
さて、今回で本シリーズは終了する。毎号2ページという枠のなかでは1つのことを説明するのは難しく、説明が不足している点も多々あったかと思う。もっと色々なことを詳しく説明したいという気持ちはあるが、続きはまたの機会にしたい。ご愛読いただきましてまことにありがとうございました。
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