第6回 裁判の準備書面では原因よりも結果を強調する | |||||
年明けとともに本稿を書き始めて、はや6回目。当初は予期していなかった問題がいくつか生じている。特に法律用語の取り扱いがなかなか難しい。 裁判の話には法律用語や法廷用語がつきものだが、これらを筆者のような素人が法律家並の正確さで使いこなすのは困難だ。また、それに気をとられて内容の検討がおろそかになり、私の言いたいことが読者に十分に伝わらない恐れもある。 そこで今回からは法律用語の正確さにはさほどこだわらず、できるかぎり日常語の範囲内で話を進めていこと思う。ついては法律に詳しい読者には御寛容をお願いしたい。 厄介なコンクリートの欠陥 本題に戻ろう。前回述べたように、訴状、答弁書の提出が終わると、次は準備書面の応酬になる。建築トラブル裁判ではこの準備書面の書き方が難しい。特に欠陥がコンクリートにかかわるものである場合が厄介だ。コンクリートには品質の明確な判定基準がなく、欠陥の程度や原因を明確にすることが非常に難しいからだ。 例を挙げて説明しよう。コンクリート構造体に“異常”に多くのクラックが見つかったとする。この場合、床面もしくは壁面1平方メートル当たりに幅何mmのクラックが延べ何m見つかったら、“異常”になるのだろうか。 これが鉄骨であれば、欠陥の判定方法が確立しているので、そう問題はない。鉄骨が建て上がった段階でも、例えば溶接部の品質が疑わしいとなると、超音波深傷試験を実施する。それによって、溶接部に潜在するクラックや不溶着部分の幅や長さ、位置など様々な点にわたり、きめ細かい判定基準に合格しているかどうかの判定を行うのである。 ちなみに検査の結果、欠陥の程度が大きいと分かれば、まずは補強、それで済まなければ工事のやり直しということになる。一昨年の5月には、東京都千代田区に建設中だった7階建てのビルが、鉄骨を組み上げた段階で160カ所に上る欠陥溶接を指摘され、取り壊されるという事件があった。このケースでは、全部で600ある溶接個所のうち、約3分の1の192カ所を対象に超音波深傷試験を実施したという。その結果、検査個所の約84%にあたる162カ所が、日本建築学会の規準に至らず不合格に。欠陥個所のあまりの多さに手直しもままならず、建て直されることになった。 鉄骨に加えて設備工事や防水、塗装などの仕上工事などでも、品質の明確な判定基準が設定され、欠陥の原因究明や補修方法が確立されてきた。ただコンクリートだけがいつまでも不透明で、へりくつまがり通っているのだ。 判定基準が全くないわけではない。“強度”の指標はある。ただ、これよりもはるかに重要な耐久性の指標が明確に存在しないのである。 耐久性にかかわるコンクリートの要素は、セメントの品質から始まり骨材の粒度、硬度、骨材とともに混入する泥分、塩分、有機不純物。 さらに生コンの製造技術に、コンクリートの打設、養生技術など、実に多い。これらについてはJJISやJASSなどが個々の品質規定や試験法を定めてはいる。だが、実際に建設界の指標として使われているのは強度だけなのである。 これまでも、やれ塩害だ、アル骨だとマスコミに騒がれるたびに、慌てて諸規定を増やしてはきた。しかし結局のところ、真正面からコンクリートの耐久性に取り組んだことはなかった。これは建築界の怠慢以外の何物でもない。その一員である筆者も大いに反省するところだ。 原因よりも結果を強調する
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