第5回 急いで反論しなければ相手の主張がそのまま通る | |||||||
建築トラブルが裁判に至る場合も、扱う対象が異なるだけで、手続きや進め方などは他の裁判と変わるところはない。そこで今回は、裁判の一般的な進め方について説明しよう。 被告は早急に意志表明を 裁判はまず、原告が裁判所に【訴状】を提出するところから始まる。この訴状には書式があり、請負代金を支払わない施主を相手に施工者が起こす【代金請求事件】の場合には、【『被告は原告に対して金××円の金員を支払う。また・・・』 との判決を求める】との書き出しで始めることになる。それ以降は、事件のあらましを述べるなかで、被告の非を何ヵ条にもわたって訴え、原告が上記金額を請求する正当性を主張しなければならない。 訴状を受けた裁判所は受付印を押し、担当裁判官を決めたうえで、訴状を被告人に送付する。訴状を受け取った被告側は、早速この裁判を受けて立つ意志を表明する必要がある。 訴状を放っておくと、被告は原告の主張を認めたものとみなされ、裁判所は、原告の主張が正当か否かに関係無く、原告の主張に沿った判決を下すことになるからだ。反論しなければ、訴状の内容を認めたと思われて仕方がないのかもしれない。しかし、ここで既に一般市民の常識と裁判の常識との間のズレが生じているのではないだろうか。 いずれにせよ、被告は大急ぎで反論を開始しなければならない。具体的には【答弁書】というものを作成し、裁判書に提出することになる。 なお、裁判では通常、原告、被告双方に弁護士がつくが、必ずしも弁護士をつけなくてよい。実際、法律知識のある人や裁判慣れした人が、弁護士なしで裁判に臨んでいることもある。 答弁書では、ともかく原告の訴状に対して、各条項ごとに、(イ)認める、(ロ)否認する、(ハ)不知、(ニ)争う―の4通りの態度を表明しなければならない。 ここでいう【不知】とは、法曹界のみで通用する隠語であり、市民生活では決してお目にかかることはない言葉だ。しかし、これは【相手方はそのように主張しているようだが、それは向こうさまの御家庭の事情で、当方の知ったことではありません。ですから、何とでも御主張下さい】というような意味をたった漢字2文字で表現できる、なかなか便利な言葉である。 (ニ)の【争う】は、【その主張については、今後当方の証拠書類などを整えて、どちらの主張が正しいかを法廷で争います】という意味である。裁判の争点となるのは、まさに被告がこのように【争う】と表明した条項なのだ。 2,3年は続く文書合戦
|