防水なし,でもクレームは皆無
 コンクリート・クライシスが叫ばれ、それと共に、築後10年ぐらいでの外壁修繕が半ば常識化されつつあるが、これは大間違いである。水量を少なくし、壁・スラブを厚くして打設しやすくすると共に、かぶり厚を十分にとってやれば、コンクリートという材料は十分に信頼に値するものであることを、私は30年の経験を通じてよく知っている。
 また、RCで防水工事不要と言うと、大抵の人がビックリする。が、10余年の間に10数件の実績がある。これについては言の発端から説明しよう。
 去る58年に私は実弟の住宅を設計した。4間×5間,20坪の2階建て,RC壁構造で何の変哲もないコンクリート・ボックスであったが、ただ、屋根スラブは4間×3間と4間×2間という大きなスラブ2枚で構成されている。このスラブは大きいし、周辺は壁だし、数年後には恐らくクリープのためにたわむであろうと思った。たわみを少なくするためと、たわんでも雨漏りなどの実害がないようにとの用心から、スラブ厚は20cmとし、縦,横ともダブルにしてタップリ配筋しておいた。
 躯体が打ち上がってまだ防水もしていない段階で、ふと気がつくと屋上に水がたまって深さ5cm位のプールになっている。1週間前の雨の日かららしい。2階では既に造作の準備にかかっているのに、屋根スラブ下端にも壁にも、雨漏りはおろか水のしみ出た形跡も全く見当たらないので気がつかなかったという。水がたまった原因はドレン穴の目詰まりだったが、漏らなかった原因を考えて私はニンマリした。
 この工事の施工者の堀建設(東京都世田谷区宇奈根)は社員6〜7人のいわゆる街の工務店。しかも私とは初顔合わせだった。それで、スランプ18cm以下を必ず守ることと、コンクリートをしっかり締め固めることの2点だけを、着工前にも着工後にも、くどいくらいに何度も何度も念を押した。社長も担当者も非常にまじめな技術者で、私のこの注意を真剣に受けとめて実行してくれたのが、この“防水コンクリート”出現の原因だったのだ。
 これ以後私は、そんなに大きくない建物の場合には、この堀建設に特命で発注するよう、施主に進言してきた。そして、住宅,小規模マンション,工場など、合わせて十数棟が防水なしで誕生した(堀建設が単独で手がけた設計施工物件を含む)。クレームは1件もない。
 ただし、スラブ厚は最低でも18cm、ダブル配筋の上にφ6−@100のワイヤメッシュを斜めに置くことにしている。住宅の場合は勾配屋根にすることが多いが、その最初の時、スランプ18cmの生コンがなかなか斜面に落ち着かず、ともすればずり落ちそうで左官屋さんの大奮闘にもかかわらずデコボコのアバタ面に仕上がってしまった(しかしそれでも雨はしみなかった)。これに懲りた現場マンが、次回からはスタンプを15cmにしたり13cmにしたり、木毛板の上だと生コンがずり落ちなくてよいとか、色々工夫しては報告してくれた。
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