厚さ27pの壁と、20pの屋根
 そこで今回の現場では、屋根スラブは厚さ20p,スランプ13pとし、室内の音響効果と断熱と生コンのずり落ち防止の一石二鳥を狙って木目板打ち込みとした。軒裏には木目板は用いなかったが、鼻先の土手の部分だけ上に蓋型枠を設けたので、それが生コンのずり落ち防止に役立ったようである。
 苦労したのは軒樋である。せっかくシンプルでスマートに屋根を作るのだから、ここでビニール軒樋など余計なもの、壊れやすいものはつけ加えたくない。さんざん考えたあげく、端部にコンクリートで土手を作ってこれを軒樋にすることを思いついた。コロンブスの卵みたいなもので、できてしまえばどうということはないが、これを思いついた時はうれしかった。写真2でご覧のように、打ち上がりの出来栄えもまあまあである。端部の土手と、ルーフドレンを写真3,4でご覧いただきたい。
 壁厚は、聖堂吹き抜けの外壁4枚が厚さ27cm(木目板ともで30cm)、それ以外はずべて20cmである。スランプは15cmである。
 次に2階の床スランプだが、これは6.8m×11mの1枚スラブで厚さは25cmある。最初はボイドスラブを考えて図面を書き、施工者に渡したところ、ボイドメーカーに払う「材料費プラス技術指導料」が高いうえに、ボイドとボイドの間の配筋手間が大変だと言う。そこで考え直してみたら、厚さ25cmぐらいではボイドによって浮くコンクリートの量は微々たるもので、何のメリットもないと気がついたので取りやめて普通のスラブにした。天井は張らずにVP塗りでスラブ直天、照明器具も露出型を取り付けた。シンプルということは、手間もかからず出来上りがスマートである。
 なお、この大スラブは、中央部で飛び跳ねても、振動は全く感じられない。聖堂側には聖歌隊用ギャラリーを設けたが、実はこれは大スラブのたわみ防止用のカウンター・ウェイトという意味もある。
 以上でお分かりのように私と堀建設とは10数年にわたって相互の深い信頼関係の上で仕事を続けてきた。相手の規模・能力を超えた無理は押しつけないし、施工者の方でも無理な仕事は引き受けもしてくれない。しかし、膝をつき合わせて相談し、双方が納得して決めたことはもう大丈夫。いわゆる監督などしなくてもキチンとやってもらえるし、問題があれば相談に来てくれる。
 このような安心感は何よりもありがたい。本来、設計者と施工者の間はこうあるべきはずだと思う。ゼネコンに限らない。例えば地盤調査,杭,鉄骨,防水,塗装,電気等々の分野においても、私の質問に納得のいく解答を与えてくれるような知識と経験があるところに仕事をお願いすれば、元請がどこであろうと、そこの専門分野に関しては竣工まで安心である。そんな個人や会社とのつき合いを、私は事務所開設以来大事にしている。まず最初に個人的つき合いがあって、それからその人を通じて会社とのつき合いになることが多い。その人が会社を変わった場合、私の事務所としての指名会社がその人の新しい会社に変わることも珍しくない。私のおつき合い願ってる個人が、会社の最高責任者であれば言うことはない。
 工事規模の大小を問わず、設計と施工の間にこのような信頼が確立されていれば、欠陥工事など生まれるはずがない。

■写真5:聖堂内部
「柱型や梁型のない空間がいかに美しいものか改めて感じている。施工も楽だし、工事費も安い。こんな大型壁構造にすっかり惚れ込んでしまいそう。(井上博)」



■写真6:
聖堂から集会室を臨む。正面の2Fは6.8m×11mの1枚スラブでできた牧師館。「コンピュータで計算し、カンピュータで修整しながら設計を進めた。(井上博)」
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