提案2:床・壁もっと厚く
わが国のコンクリートの2大問題の1つが前述した骨材の不純物(塩分、泥分)であるとすれば、他の1つは水量過多である。骨材の不純物は水洗いさえすればすむ問題であるが、水量を減らすのはそう簡単ではない。減水してスランプを低くすれば、てきめんにジャンカが発生する。新耐震以来フープ、スターラップを始め鉄筋量は増え続け、配筋はますます混み合ってくるのに、柱、梁、壁、スラブ等の躯体寸法を増やすことは、なかなか許されない。この矛盾の解決のための窮余の一策が、水量過多のジャブジャブコンクリートとなっていたのである。
ここ数年のコンクリートクライシスで、ようやくスランプ規制、水量規制の方向に大勢は動き始めた。JASS5も改訂されつつある。結構なことではあるが、このままでは唯一の逃げ道をふさがれて、文字通りの八方塞がりとなる。どこかに活路はないのか。流動化剤の積極的利用は活路の1つであるかにみえる。しかし、何かしらもっと抜本的な対策を講じないと、いつまでも小手先の弥縫策では済まないはずである。
「マンション問題」を例にあげよう。住まい方だとか管理組合の運営、法律問題といったソフトな問題もさることながら、我々建築技術者に関係の深いハードな問題を枚挙にいとまない程、抱えているテーマだ。
雨漏り、壁のクラック、鉄筋の露出と赤錆、被覆コンクリートの剥落、上下階の遮音、隣戸間の遮音、床のたわみ、給水管の赤錆、排水管のコレステロール、排気不良等々。これらのうち、壁のクラック、壁筋の露出や錆、床のたわみ、上下左右間の遮音等は明らかに構造上の問題、というよりコンクリートの問題である。とりわけ、遮音の問題は壁と床のコンクリート厚を増やすだけで一義的に解決されることである。また、壁厚を増やすことはコンクリートの打ちやすさに直接つながり、そうなると低スランプが可能となってコンクリートの水量低減が容易になる。かぶり厚さも増える。収縮量も減る。一石二鳥どころか、四鳥にも五鳥にもなる名案である。
表B−1●コスト試算例3

マンションの壁と床を25cmにしても建築費は坪当り1万円も増えない
表B−2●コスト試算例4

マンションの販売価格は坪120万〜250万円。床・壁を25cmにするためのコストは坪1万円(0.5%〜1%)
坪1万円アップでクレーム根絶
「そうはいっても、金がかかるのではないか」との反論にお答えしよう。上の表を見ていただきたい。これは、現在、既に竣工しているマンション3棟について、その積算時に壁厚、床厚を25cmにしたら、一体いくら金額が増えるかを計算したものである。
表B−1は壁構造5階建ての場合だ。ご覧のようにコンクリート量は50%近くに増えている。しかし、型枠が少しも増えないとは誰でも分かるし、構造計算を少しでもやった人なら鉄筋量が増えないことも自明の理であろう。ゆえに結局、工事費の増加は単にコンクリート費の増加分だけであるから、この金額を出して延べ面積で割ってみると、1平方メートル当たり2355円、坪に直して7700円のアップとなる。重量が増えるから杭や基礎の費用も若干増えるが、これらを見込んでも1坪当たり1万円程度である。
ご承知のようにマンションの売価は、地価の安い地方でも1坪当たり100万円ぐらいはする。都心部では200万も250万もしている。この価格に比べたら躯体コストの1万円アップなど物の数ではない。そして1坪1万円という、ほんのわずかなコストアップによって、前述したような数多くのメリットが生まれるし、設計者も施工者も竣工引き渡し後のクレームに悩まされることがなくなる。
表B−2はラーメン構造の場合。このケースではコンクリート量の増加は20%程度、金額にして1坪当たりわずか5000円程度である。2次的な増額を見込んでも、やはり1坪1万円ならおつりがくるくらいのアップ額である。
マンションでは現在、築後10年も経てばクラックや鉄筋露出などの構造補修工事を行うのが当然といった、誤った考えが常識化しつつある。補修には1戸当たり数10万円の費用がかかるから、管理費のほかにかなりの修繕積み立て金が必要とされている。修繕積み立て金はもちろん必要である。そうはいっても10年おきくらいに、1戸当たり何10万円もかけての躯体の修繕が必要というのは何とも情けない話だ。
骨材の水洗いを完全に行い、十分に厚い壁と床にし、水の少ないスランプ12cm程度のコンクリートを打てば、50年や60年では躯体補修は不要のはずである。修繕積み立て金の額も現在よりずっと少なくなって、居住者の負担も減るし、建設業に対する信頼感もグッと高まること疑いなしである。
現在、リフォームがブームになりつつあるが、最初に不完全な商品が売り出されて、その結果、修繕業という新市場が生まれるというのはどう考えてもおかしい。これは、まやかしの新市場であって、実態は建築業の信用を自ら食いつぶしているのである。
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