提案3:積極的に社会へPRを
以上提案した骨材の水洗、壁厚と床厚を増すことは、どちらもわずかとはいえコスト増になる。現実離れのした、夢のような提案であろうか?
現状を考えていただきたい。毎日の建築専門紙を見ると、生コン、型枠、鉄筋、鉄骨、要するに躯体関係の下請け業界のすべては、ほかの物価の上昇をよそ目に横ばいか下降気味で、それぞれが採算割れで悲痛な叫び声をあげて、官庁への陳情だとかゼネコンへの申し入れなどに明け暮れている。
一方では前述したようにコンクリートの諸問題とそれに起因するマンションの諸問題がある。昔に比べて建物の品質が低下している証拠だといってもよいだろう。建築設備や仕上げ工事などが年々立派になっているから、素人目には建物の品質が高まっているように見えるかも知れない。しかし仕上げや設備が立派になった分だけ躯体コストが削られるから、下請けは死にそうになり、コンクリートの品質が低下するのである。
発注者が個人あるいは一法人であっても、でき上がったものは社会的資産である。それにふさわしい品質と耐久性を持つ建築が作られなければならないはずである。例えば建築と同じように鉄骨を加工しているのに、土木系の橋梁は1トン45〜55万円もする。そのかわり耐久性が問題になったことはない。建築の鉄骨単価は土木の半分以下の18〜25万円ぐらいだが、台風で倒れたり、あるいは風もないのに建方時に倒壊事故を起こしたりしている。
もう1つ問題は、建築業界があまりにも無口でPRがヘタ、というよりも、業界としての対社会的PRが皆無に近いということである。
いつ自閉症から脱却するつもり
10年あまり前、光化学スモッグが社会問題になった時、役所では自動車の排気ガス規制法を準備した。これに対して自動車業界は「この規制が実施されれば、対応する装置をつけるためにクルマ1台につき4〜5万円のコストアップになり、その分は当然販売価格に上乗せしなければならない。我々メーカーとしては、そのような大幅な値上げをユーザーに強いるのは不本意である。よって規制法には反対である」として新聞に週刊誌に猛烈な反対キャンペーンを展開した。
しかし、自動車業界挙げての一大キャンペーンも空しく規制法は成立した。業界の負けかと思ったが実はそうではなく、クルマ値上げの理由は世の中に浸透して売り上げは落ちず、しかも空気はきれいになって光化学スモッグもなくなった。八方メデタシである。

除塩のために、現在は野積みした海砂へ散水するような対策がとられている。しかしコスト的に裏付けが不十分なため、除塩効果の少ないおざなりなものになりがちだ。必要なコストは、きちんとアピールして請求する姿勢が必要である。
川砂、川砂利を採りつくして、海砂、山砂利を使わざるを得なくなったこと、そのために塩害、泥害が出るようになったことは、まさに光化学スモッグに相当する。「社会資産の品質確保のためには骨材の水洗以外に手段がない。そのため、生コンのコストがこれだけ上がる」、「建物の安全性と耐久性を担っているコンクリートの品質確保のためには、どうしてもこれだけのコストが必要だ」ということを建築業界はなぜに大々的に対社会にPRしないのか。
冒頭に書いたように、ズブの素人でさえコンクリートクライシスの知識を持った現在は、まさに千載一隅の好機である。強力なキャンペーンを展開して正当なコストを確保するには今しかない。
建築業界内部におけるコスト抑制のための企業努力は、とうの昔に限界を突破している。社会に向かって正当な要求をせず、いたずらに下請けへ苛酷な要求をしている現状は、まさに自分の足をかじっている自閉症にほかならない。建築業界が自閉症を脱却しないかぎり、いつまでも結論なき討論と悲鳴は続くであろう。
設計者、ゼネコン、サブコンを問わず建築業全体を横断しての対策委員会の設立が望まれる。
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