薄皮まんじゅうのような欠陥コンクリ
さあ大変である。210kg/平方センチメートルで設計した建物の最低強度が100kg/平方センチメートルそこそこであると判明したのだ。ちゃんとした対策がたつまでは、うかつに施主に報告できないが、といって工事をそのまま続行するわけにもいかない。設計者と私と現場主任、およびゼネコンの幹部とで連日、鳩首密談を重ねた。私は建て直しを主張したのだが、ゼネコン側は「上棟式まで済んだ建物を解体して建て直したとなると、信用問題 で我が社は潰れる。どんなに金がかかってもかまわない。指示通りに補強工事をするので解体だけは容赦願いたい」という。
結局、設計者はこう決断した。「施主に事情を説明し、工期を延長してもらって徹底的な補強工事を行うのが最良の方法だろう。もちろん施主が要求すれば、建て直さなければならないし、それに伴う営業補償も必要となる。私の事務所としても監理責任を覚悟している」。
幸いにも、施主は設計者の意見に同意してくれ、大がかりな補修補強工事を行うことになった。まず考えたことは、わずかな個所のサンプリングで低強度のコンクリートが見つかったのだから、実際にはもっとひどい状態もあるのではないか、ということである。そして、1)建物全体の各部位にわたって徹底的に実態調査を行う、2)補強しても所詮傷物であるから、できるだけ方々にバランスよく耐震壁を増やす、という2点が大事だと思った。
そこで現場にコンクリートの表面斫りを主とした実態調査を命じる一方、 設計者や施主とともに木造間仕切り壁のRC変更や、新規のRC壁追加を検討した。
現場で70の実態調査の結果は惨たんたるものであった。上棟式が済んで誰も気がつかなかったくらいだから、コンクリートの表面は一応、奇麗に見える。ところが奇麗なのは表面から1mmくらいの深さだけ。薄皮まんじゅうの薄皮のような皮膜が、コンクリート表面を覆っていただけの話で、斫りノミを用いるまでもなくハンマーでたたくと薄皮が破れ、ザラザラと砂利や砂が崩れ落ちる始末。これには我々はもとより、現場員一同が唖然として開いた口がふさがらなかった。

一応奇麗に打たれていたコンクリートも、一皮めくればこのとおり。ジャンカだらけで、砂や砂利がザラザラと崩れ落ちた。
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