■かぶりが不足、屋根防水にも弱点
 さて、最初の予備診断の時に一目見て分かったことだが、この団地の弱点は、屋根防水のまずさ(設計、施工とも)と、鉄筋のかぶり厚の不足の2点である。
 屋根はよく漏るから補修のために職人がよく歩く。よく歩くから余計に傷む。こういう悪循環はほとんどの雨漏り屋根に共通していることだが、この団地では防水層の端末の立ち上がりを押さえるアゴが低くて、納まりが悪い。また、アゴのコンクリートが塔屋と一体打ちされずに後打ちとなっており、差し筋が不十分で塔屋壁との間に隙き間ができた部分もあった。これまで行われた小規模な補修でコーキングが施されているが、ハンマーで2〜3回たたくと、ポロリとアゴが落ちる個所が少なくなかった。
 鉄筋のかぶり厚不足は、縦横とも目地底に鉄筋が露出していたり、軒やバルコニーの先端に鉄筋が顔を出したりしていることからすぐに分かる。こんな所はハンマーでたたくと、たいていはポロリとコンクリートが欠け落ちる。斫ってみると、鉄筋に沿って雨水が染み込んでしまい、降雨後4日もたつというのにコンクリートの濡れている所が何個所もあった。
 塗膜で隠されている躯体の実態を良く知るために、高圧水洗浄機を使った旧塗膜の完全剥離を考え出したのは、三木哲氏らの先駆者であるが、ここ数年吹き付ける水圧が、100s/平方センチメートルから200,300s/平方センチメートルと上昇してついに1,500s/平方センチメートルという超高圧のものまで出現した。この現場にも適用している。
 1,500s/平方センチメートルの超高圧水洗浄機は、使用水量が毎分6リットルと極めて少ない上に、ノズルと壁面との距離を調整することによって、壁面の受ける圧力を調整することができる。近距離から1点に向けてしばらく噴射すれば、ほとんど斫るような効果さえある。外壁の旧塗膜を仕上げ材だけはがすか、下塗りまではがすか、さらにコンクリート躯体のジャンカまで洗い出すか、自由自在という感じである。
 もちろん、新しい手法だから使い方によっては躯体を傷め過ぎるとか、均等に塗膜を剥離させづらいなどの難点もあるが、これらが改良されれば、補修工事の新兵器として、大いにその威力が期待される。

足場をかけて高圧水洗浄機で洗うと、かぶり厚ゼロの鉄筋が露出した。木片が出てくる時もあった。




ベランダ手摺り壁の一部は軽量骨材がビー玉のようにゴロゴロとひしめく。ハンマーのとがった先でほじくっているうちに穴があいていまった。 (上:外側、下:内側)
●横筋がない 屋根の軒端は鉄筋の錆びが赤く表面に浮き出ている(写真2)。この錆びのためにコンクリートにクラックが入り、端部には横筋が入ってなかったので、軽くハンマーでたたくだけで、コンクリートが割れ落ちてしまう。(写真3〜5)。結局、写真6のうように横筋を追加してコンクリートを打ち足し、アルミ笠木をかぶせて仕上げた。
●防水処理がまずい
排気ファン用塔屋。その屋根庇の鉄筋露出も驚くばかりだが(写真2)、足元の防水立ち上がりのアゴも付け根にコーキングされ、怪し気なので斫ってみると、後打ちのアゴはポロリと落ちて、防水層は完全に肌分かれ(写真3)。
●かぶり厚不足により、錆び鉄筋が露出している
建物を外から良く見るだけで、鉄筋のかぶり厚が不足していることが分かる(写真1、2)。高圧水洗浄機で良く洗ってみると、鉄筋のかぶり厚不足が確認された。赤錆びていない鉄筋は1本も見られない。
●鉄筋のかぶり厚がない 妻壁パラペットの押さえ立ち上がりアゴは、横筋のかぶり厚はゼロ。モルタルだけで被覆されていた(写真1)。アゴをすべて斫り取ると写真2のようになる。補修方法は、パラペットと柱に見切り溝掘りをして、防水層をていねいに巻き込む(写真3)。この後、この部分にアルミの押さえ金物や水切り金物などを取り付ける。パラペット頂部と軒庇先端のアルミ笠木は特注である(写真4)。




●配筋がなっていない


ベランダ外壁下部の横目地の底に縦筋が露出して錆びていたので写真の番号順に斫ってみたら、写真4に示すようなひどい配筋も現れた。鉄筋周辺のコンクリートが漏れているのは、3日前の雨が染み込んだもの。




●アンカーがない
ある棟では、ベランダの妻壁の横筋が柱にアンカーされていなかったので、ほとんどが写真1のように隙き間を生じている。下方をハンマーでたたいたら、写真2のように骨材とセメントペーストが分離した状態になった。
●超高圧水洗機
毎分6リットルの水を1,500kg/平方センチメートルの高圧で噴射する。このため壁面に近づけてしばらく噴射すれば、コンクリートの不良部分を洗い流すことができる。単なる汚れ落としから、ジャンカの摘発、鉄筋の錆び落としまでできる。
●排気筒の固定が十分でない
建物の両妻にある住戸のバランス釜置き場(写真1)の排気筒はその固定が不十分。接続部が途中ではずれているものもあった。よく事故が起こらなかったものである。
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