■報酬は正しくもらわねばならない
 既存建物の診断や修繕設計、修繕工事に対する監理は、新築工事に比べるとたいへん難しい。設計や工事監理に長年まじめに取り組んできて初めてできることで、一級建築士になりたての若い人には歯が立たないであろう。そんなベテランは1つの事務所にそう何人もいない。電気や設備になるとなおさらである。
 しかし、持ち込まれてくるマンションの相談は増える一方だ。今回も、この問題に関心のある設計事務所数社で相談して1つの組織を作り、内容別に最適と思われるベテランを出し合って処理することにした。このやり方は非常にうまく機能している。今までもこのやり方で方々のマンション相談に応対して好評を得ている。
 しかし、金がかかる。診断料も設計監理料も、建設大臣告示による人件費と経費を積み上げて計算し、見積書として出しているが、所要延べ人員の算定が難しい。今回の診断では、管理組合と契約した時の予想人員は延べ90人だったが、診断終了後に精算したら何と延べ232人を要していた。
 これは、「人間ドックのように、すべての機能を正しく評価する建築診断としては、恐らく日本で初めてであろう。規模の大きさもざらにめぐり会えるものではないから、しっかりやろう」と、全員が張り切ってついのめり込んだからでもあるし、初めての経験で正確な人員の見積もりを見誤ったからでもある。
 当方の懐勘定は大赤字になったが、良い経験にはなった。これに懲りて次年度の修繕設計と目下実施中の工事監理の契約では、これほど大幅な見込み違いは避けられた。
 我々が平均して20年のキャリアを持つ有能な人材を投入して正しい判断を下し、何百何千人もの居住者に信頼感と満足を与え、結果としてその後の長い付き合いに発展するくらい一生懸命にやるには、やはりそれ相応の報酬は必要である。
 この点も補修の内容と同じように上手に説明して、居住者に正しく理解してもらわなければならない。
 若干の値引きは別としても、正当な報酬をダンピングするのは、施主に対して決して親切でもサービスでもなく、むしろ逆効果をもたらすことが多い。そして、正当な報酬を主張できるのは提供する技術に対する自信であり、自信を生むのは日頃の努力だと思う。
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