■不安の3:耐震改修指針第122頁の補強法についての心配・・・・・・ダイヤフラムの開裂

なお、梁端と通しダイヤフラムとの隅肉溶接を斫り取った後に梁フランジの開先加工を行い、裏当金及びエンドタブを取付けた後に、梁フランジと通しダイヤフラムの完全溶込溶接を行う。
完全溶込溶接は超音波探傷法により全数検査を行い、不合格欠陥がないことを確認する。この補強方法を全部の柱梁接合部について行う。
開裂の恐れについて(井上 博著 増補溶接読本 (株)建築技術 1984より)
開裂というのは、2枚の板の間に直角方向に別の板が挟まれて3者が溶接によって一体化されている場合に、2枚の板が夫々板方向に引張力を受けた場合、間に挟まれた直角方向の板が下の写真及び図のようにあたかも引き裂かれたようになる状態を言う。この開裂は2枚の板の間に挟まれた直角方向の板が十分に余長がある場合でも発生することがある(写真参照)が、写真の下に示す図のように挟まれた板の余長がない場合に最も生じやすい。従って、開裂防止のためには挟まれた板の余長を少なくとも20mm位は取る必要がある。通しダイヤフラムの余長を柱材の表面から20〜25mmとるのはこの理由からである。写真下の図の左上のように、直角に溶接された板の場合でも余長がなければ開裂が発生する。従って、前ページの
印部分は補強のためにプレートを溶接してこの補強プレートを通しダイヤフラムに溶接すると、ダイヤフラムの余長が殆どなくなるから非常に開裂し易い状態になるわけである。
この3つの不安を念頭において考えると、結局、乙第4号証による補強方法は仮に元々の溶接の品質が正しい施工により維持されていたとしてもなお、上述の不安の2として地震時の繰り返し加重に対する欠陥要因の存在が指摘されている。本件建物鉄骨のすべてのコアブロック部分に存在する3つの瑕疵(裏当金欠如、脚長の短い隅肉溶接、高低の不整合)とその大きさ、その複合による効果、更にガウジングによる高熱の鉄の性質に与える影響(組み上げた現場ではもとより、持ち去り可能としても熱処理は不可避)、平坦化、面の円滑化の困難さを考慮した場合、それをすべてのコアブロックにつき、良好に行うのは極めて困難であると同時に、仮に行えたとしても、通常の鉄骨以上に繰り返し与えられた熱塑性による変化の要因がより多く残ることから、やはり万全のものとはいえず、当初の設計どおりの強度は期待できないことは確実と思われる。
本件建物鉄骨のすべてのコアブロック部分に存在する3つの瑕疵(裏当金欠如、脚長の短い隅肉溶接、高低の不整合)とその大きさ、その複合による効果、更にガウジングによる高熱の鉄の性質に与える影響(組み上げた現場ではもとより、持ち去り可能としても熱処理は不可避)、平坦化、面の円滑化の困難さを考慮した場合、それをすべてのコアブロックにつき、良好に行うのは極めて困難であると同時に、仮に行えたとしても、通常の鉄骨以上に繰り返し与えられた熱塑性による変化の要因がより多く残ることから、やはり万全のものとはいえず、当初の設計どおりの強度は期待できないことは確実と思われる。
よって、鑑定事項1の1)の補修方法(乙第4号証提案)に対する鑑定結果は『理論的には一見可能なようにも思われるが、これまで色々の考察を重ねてきた結果、すべてのコアブロックに重大な瑕疵を多数抱える本件にあっては、この補修方法では建築基準法の耐力を保持することを保証することは出来ないと鑑定人は考える。
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