■完全溶込溶接と隅肉溶接
甲第22号証の2として提出してある「耐震改修促進法のための既存鉄骨建築物の耐震診断および耐震改修指針・同解説(1996)」(以下、耐震改修指針と称する)の205頁には「完全溶け込み溶接すべきところを、隅肉溶接したために破断した例は枚挙にいとまがない。これらは部位を問わず論ずる以前の問題である。更に、これらの隅肉溶接を見て愕然とすることは、申し合わせたように、隅肉溶接のいずれかの脚が母材を溶かしておらず、抜け出す形になっていることである。推量するに溶接姿勢と隅肉溶接という安易感によるものであろうが、隅肉溶接資格者の倫理に疑念を抱く次第である。監理者がそこまで監理すべきか、溶接作業者の技量内と見なすべきか考えさせられるが、基本的には後者であるべきと思っている。」と述べてある。このことは鑑定人もつねづね痛感しているところであり、全く同感である。(但し、鑑定人としては完全溶込溶接が隅肉溶接に化けるのは工事監理の不行届きだと思っている)

隅肉溶接は応力の完全伝達は不可能である
■乙第1号証及び乙第2号証の溶接部引張試験について
乙第1号証及び乙第2号証では、裏当金がなくとも裏当金がある場合と殆ど変わらない引張り強度があるので、従ってダイヤフラムの片側溶接でも本件建物の安全性は確保されている、との主張のようである。しかし、この引っ張り用の試験片自体、現場から採取されたものではなく、試験用に作成されたものであり、しかも本件で現実に行われた裏当金無しの隅肉溶接の状態を表しているものでは決してない。即ち、現場におけるコアブロックと通しダイヤフラムとの溶接部は脚長僅かに5mm程度の隅肉溶接である。しかるに群馬県工業試験場に持ち込まれて引張試験をうけたこの試験片は、開先をとって完全溶け込み溶接に近いものとなっている。従って、試験に供されたものは本件建物のコアブロック廻りの隅肉溶接とは殆ど別物とでもいうべく、全く証拠価値を有しないし、参考にはならない。
現場の隅肉溶接 工業試験場に持ち込んだ試験片
乙第2号証の資料
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