せんじつめれば対策は3つ 坪1万のアップは高くない 〜コンクリート問題改善への井上試案〜
日経アーキテクチュア 1986年2月10日号

コンクリート・クライシスから脱却するには、どうすればよいか。この問題に取り組み続けている構造家、井上博氏の答えは3つある。1)骨材をよく水洗いし、2)コンクリートを打ちやすいように壁厚、スラブ厚を増大させ、3)それに伴なうコストアップを積極的に社会へPRすることだ。「一人の力では対応が難しいが、皆で渡れば怖くない。必ずできる」と説く。


鉄筋を露出させ、惨状を呈しているRC構造物。こうした構造物を根絶し、建築に対する社会の信頼を取り戻すために、3つの対策を井上氏は提案している。写真は海岸沿いの建物の高架水槽塔を見上げたところ。かぶり厚不足により、鉄筋が露出した。
わが国では、毎日毎日200棟以上のRC建築物が竣工している。年間に直すと8万棟以上である。そしてつい数年前まで、一般市民は「RC造の建物は、メンテナンスフリーで半永久的な寿命を持つもの」と信じていた。それだけに海砂による塩害問題がNHKテレビで放映された時のショックは大きかった。さらに追い打ちをかけるようにアルカリ骨材反応が放映されるに及んで、建築に全く無縁の人々ですら、「コンクリートクライシス」という言葉を口にするようになった。こうした問題に対して、建築界内部でも対応策が講じられているが、まだ決定打は出ていない。 コンクリート問題の解決が遅れれば遅れるほど、私たちは多くの不良ストックを子孫に遺すことになる。戦後40年、営々として築き上げたかにみえる建築物が不良資産であるとなれば、次世代の日本人もまた、我々と同じ努力を重ねなければならない。何かうまい解決策はないものかと、この数年間思案し続けてきた結果、もはやこれ以外に手はあるまい、と考えたことがある。それを、ここで提案したい。
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