ケース3:設計・施工のイロハ守ればコンクリは潮風にも耐える | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
昭和36年、横浜市中区にある山下埠頭の埋立・造成が完了すると同時に、営業倉庫など20数棟の港湾施設がほぼ一斉に着工された。いずれも、建築面積が3500平方メートル程度、3〜4階建ての規模である。 |
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当時としては珍しいPCを採用 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
どんな建物でもそうであるが、営業倉庫はことに柱を嫌う。倉庫であるが故に床の積載荷重は1.5〜2t/平方メートルと大きいので、必然的に柱も大きくなる一方、柱間隔は小さく(6〜7m位)ならざるを得ない。これは、有効スペースを減殺するのみならず、フォークリフトの活動を阻害することおびただしい。 この山下埠頭に、私が50m×70m、1フロアー約1000坪、4階建ての営業倉庫の設計依頼を受けた時、まず頭に浮かんだのが柱の無い倉庫であり、それは直ちにPC構造の採用につながった。 当時、我が国におけるPC建造物の実例は、橋梁と建物をあわせてもせいぜい10指を屈する程度。その建物にしても、2階建ての工場や事務所ビルがある位たっだ。そういう状況下、あえてPC構造に挑んだ理由や建設の経緯については、「建築技術 昭和37年9月号」に記述したので、ここでは省略する。 |
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大学で受けた教えを忠実に実行 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
さて、いささか手前味噌な表現にはなるが、竣工22年後の今日、潮風の吹きつける埠頭で、しかも岸壁から50mと離れていないにもかかわらず、この建物の打ち放しコンクリートの建在ぶりには目をみはるものがある。 竣工から現在まで、建物の外壁には一切手が加えられていない。同じ地区の他の倉庫の中には、数年おきに外壁のリフレッシュをしているものも数多くある。また、20数年間、放りっぱなしのものも多いが、当然ながら、その大半は写真で見られるようにかなり傷みが烈しい。 何故こんなに差がついたのか。簡単に言えば、コンクリートの質が良かった【設計仕様と打設方法】の一言に尽きる。 私は当時、20数年後にこの様な差が生じるとは夢にも思わなかった。ただ、ともかくも、「コンクリートは、練り混ぜる時には極力水を少なく、硬化し始めてからはたっぷりと水を与えて養生すべし」という学生時代に受けた教えを、そのまままともに信奉し、実行していただけである。ちなみに、私の事務所では当時から建物の特記仕様書には、いつも水セメント比55以下と書いていた。 |
![]() 良いコンクリートを打てば、22年間潮風にさらされても、ほとんど劣化なし。 井上設計の京浜倉庫山下埠頭倉庫 |
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施工担当者の気迫に満ちた現場 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
この倉庫では、現場のすぐ近くの空地に特設ステージを設けて、381本の同形・同寸法・同一配筋・同長のPC梁を製作。その間に、一方ではPC梁の受梁を含む、壁構造建物の壁だけを4階床まで立ち上げ、これに前記のPC梁を架け並べた。これは、当時としては前例のないユニークな工法である。 ところで肝心な点は、この工事を担当したゼネコン(白石建設)が、いわゆるPC専業者を使わずに、自らの手でPC梁も作ったことである。このPC梁はFC28>450kg/平方センチメートル、スランプ7、というしろものだった。このため、現場主任以下の担当者の心構えと気配り、勉強心などは今思い出してもすさまじく、気迫に満ちた現場であった。 この時の躯体コンクリートの特記仕様書は下表に示した通りである。PC梁に取り組むのと同じ意気込みで、躯体コンクリートに従事したのが、今日この結果をもたらした原因であろうと思われる。 コンクリートの質のみならず、かぶり厚さも正確に守られていたと思われる。何故なら、現在、写真に見られるような各階のエプロン(バルコニー)をぐるぐる歩き回って点検しても、鉄筋露出部分はほとんど見当たらないからだ。わずかに、横筋の端末がハネたため、かぶりの薄くなったコンクリートの剥落例が、2〜3ヵ所見うけられる程度である。 当時は、誘発目地という概念がなかったとはいうものの、短辺50m、長辺70mという長い壁面を持つにもかかわらず、開口部両脇の縦目地すら1本も取っていないのは、いささか若気の至りと言えなくもない。しかし、建物全体に発生しているクラックの数は少ないし、そのほとんどは竣工後1〜2年の間に発生したものである。 |
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粗製乱造を繰り返さぬように | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
PC梁製作と一緒だったという偶然に幸いされたとはいえ、この建物はおそらく今後も寿命ある限りメンテナンスフリーであろう。これを思えば、建設時の仕様と施工状態がいかに大切かが分かろうというもの。また、長い年月の間の維持管理費の差額を考えれば、私ども建設業に携わる者としては、この際、高度成長・粗製乱造の悪夢の時代を2度と繰り返さぬように、初心に帰り新たな技術の伝統を作り出さねばならないだろう。 その具体策の第1歩として、私は日本コンクリート工学協会製作の映画、「ビデオ教育講座:良いコンクリート、悪いコンクリート」の鑑賞をすすめたい。その第1巻「生コンの素顔」は既に今年1月から頒布中で、現在は第2巻「コンクリートの混和材料」にかかっていて今秋完成の見込み。引き続き、骨材、調合、施工法、試験法、補修法などについて、「理屈抜き、見れば分かる」式ものを順次作っていく予定である。 1人でも多くの技術者に見ていただきたいと思っている。 |
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