『マンションと永くつきあう方法』
1.屋根防水
 マンションのクレームのうち、一番多いのが雨漏りです。入居当時から漏る、あるいは1年後、2年後から漏り始めて、直しても直してもとまらない・・・・・・という悩みがずいぶん多いようですが、 これは明らかに欠陥工事です。雨の多いわが国での建物の第一の機能は、昔から「雨露をしのぐ」ことだったのですから、15年や20年は雨が漏らなくてあたりまえで、5年以内に漏るのは欠陥といわざるを得ません。直しても直しても漏るというのは、本気で直しているのではなくて、一時逃れの膏薬張り修繕だからです。こんな時は信頼できる建築家に相談すべきです。ただし、建築家といってもいろいろな立場があります。マンションの販売会社やそのマンション建設を請負った会社と何等かのつながりがあって、正論を吐けない立場の人もありますから、その辺を見きわめて相談すべきでしょう。
 最近は、塗装工事の会社が次第に業務範囲を広げて、屋根防水まで引き受けているようですが、 これは考えものです。屋根の表面に防水材料を塗る(あるいは吹き付ける)だけでは防水工事とは言えません。文字通り上っ面を糊塗しているだけで、欠陥防水の本質的修繕とは何の関係もないからです。「欠陥修繕」という言葉すら思い浮かぶくらいです。
 また、現在は少しも雨漏りしていないが、築後10年になるから予防的に防水工事をしようというのは全くナンセンスです。10年経過して雨漏りがないのは、防水工事がキチンと行われているからで、それなら15年や20年は大丈夫です。漏り始めてから信頼のおける建築家に相談すべきです。
2.外壁の補修
 この場合、修繕の対象となる外壁の症状は、(イ)汚れ、(ロ)ヒビ割れ、(ハ)雨漏りの3つです。汚れだけでしたら非常に簡単で、清掃業者か塗装業者を2、3社呼んで見積もって貰えばすむことです。ヒビ割れは、いろいろな原因と、いろいろな症状があってひとくちにはいえません。紙面があれば素人の常識でも充分納得の行く説明ができるのですが、ここでは省略して、やはり信頼できる建築家に頼るのが一番です。外壁から雨漏りも同様に、いろいろな原因があるので、その原因を正しくつき止めてから対策を講じないと、通り一ぺんの工事ではお金だけかかって、数年後にはまた同じことの繰り返しになる可能性があります。


壁面にひび割れが入ったマンション
3.給水管・排水管
 ごく最近の実例です。戸数120戸の築後15年になるマンションで赤水がかなりひどくなりました。 管理組合では充分考えたつもりで配管工事業者のうちから、資本金40億円の大手A社、資本金1億円の中堅B社、資本金200万円のC社の3社を選んで見積もりを取ったところ、B社の見積もり額は2100万円、C社は2400万円、A社は4200万円だったのです。あまりにもその開きが大きすぎるので管理組合の役員さん達もびっくりし、改めて対策委員会を設けました。そこでいろいろ検討し相談した結果、15年前にそのマンションを設計した設計事務所に、チャンとした診断と、それに基づく改修工事の設計図作成を正式に依頼したのです。その上で改めて前記3社から見積りを取り直したところ、B社3400万円、C社3600万円、A社3800万円と、納得できる金額が出て来ました(表参照)。金額ならば、少々高くてもやはり社会的信用度の高いA社にしようということになりました。それに、A社はこのマンションの建設時に配管工事を担当した会社でもあったのです。
 この実例は望ましい修繕工事のあり方をよく示しています。最初は簡単に考えていた管理組合の役員会が、言の重大さを悟って対策専門委員会を別個に設けたのは賢明でしたし、当初の設計事務所に相談に行ったのも賢明でした。また最後に、当初の新築工事を担当したA社にきめたのも賢明です。当初の業者がはっきりしている場合には、そこに修繕を依頼するのが賢いやりかたです。 何故なら事情がよく分かっているということの他に、責任が永続するということがあるからです。別の業者が修繕すればその時点で前業者の責任は切れてしまいます。雨漏りのように欠陥がらみの場合はなおさらです。
    A社 B社 C社
 予備調査 資本金 40億円 1億円 200万円
現場把握度
誠意、熱意
信頼度
瑕疵保証期間※ 2年 2年 2年
  第1回見積金額
(図面なしの時)
4200万円 2100万円 2400万円
第2回見積金額
(図面に基づく見積)
3800万円 3400万円 3600万円
※民法に定める瑕疵担保保証期間
〔筆者注〕 現場把握度、誠意・熱意、信頼度がABCの3段階に分けて評価してあるが、これは第1回見積徴集時に管理組合員が評価したものであるが、第2回の図面に基づく見積の結果から見れば、B社とC社の現場把握度は過大評価であったことが分かる。また、ABCの3社ともに信頼度がAというの疑問である。結局、素人の評価は見当外れになりがちで、あまり当てにならないといえよう。
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