『マンションと永くつきあう方法』
サラリーマンライフ 1985年4月
■おことわり
この作品は、今から18年前に”月刊 サラリーマンライフ”という雑誌に掲載したものです。
 男性の場合でいえば鞄とか名刺入れ、財布・キーホルダーなど、常に身につけて持ち歩く品はいつとはなしに愛着が生じて、かなり古ぼけてからでも、捨てて新品と替えようという気にならないものです。殊に、最初に気に入って買ったものならなおさら捨てがたくて、電車の中などで身なりのよい人が思いのほかに手摺れてクタビレタ鞄を持っているのを見ると、「ハハア、 あの鞄を愛しているんだな」とほほえましくなるものです。女性には、流行ということもあるし、ハンドバックにしろ装身具にしろ、男性とは比べものにならないくらい沢山持っていてTPOで使い分けるので、男性のように唯一つのものをボロボロになるまで使い込むことはないようですが、それでも気に入ったものは捨てがたくて、流行おくれになってからも大事にしまっているのではないでしょうか。
 つまり、チョッとした物ですら気に入ったものや愛しているものとは、永くつき合うのが人情です。マンションも同様で、愛着があれば自然と永くつき合うことになります。ただ、鞄や財布と違って、ボロボロになるまでというわけには行きません。こまめに手入れをしてやる必要があります。自動車でも絶えず手入れをして磨いている愛車は、永年乗っていても性能が落ちませんが、大勢の人が共用している社用車は短期間でガタが来て寿命も短いものです。

 鉄筋コンクリートのマンションは手入れ不要で何十年ももつ、という神話めいた思い込みが世間一般にあったために、つい数年前迄は修繕積立金という言葉が、マンションの売り手、買い手の間にありませんでした。それが、2、3年前に突然「マンション寿命20年説」とともに、「計画修繕」とか、「長期修繕計画」などの言葉が世に広まって来て、あげくの果ては「もう10年経ったから屋根防水を全面的にやり直さなければならない」というような間違った考えにとらわれるようになって来ました。神話が裏返しになったみたいです。マンションを構成している材料や設備について、住む人が充分な知識を持っていれば、このようなうわさにとらわれることなく、永くマンションとつきあうことができます。材料や設備についての知識といっても、難解な専門知識は必要ありません。常識で充分なのです。
 先ず、屋根防水と外壁、それに給水管・排水管という、現在の時点での修繕の御三家とでもいえそうな、金額の張る問題について簡単に説明しましょう。
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