■欠陥マンション 事例 その1

「手抜きをすれば高くつく」欠陥マンションてん末記
建設会社が自腹を切って1億円以上の修繕
日経アーキテクチュア 1985年8月12日号
昭和49年、当時の相場は2倍もの高値を付けて売り出された東京のSマンション。その「高級さ」とは裏腹に、建物本体は完成当初から雨漏りが生じるような手抜きの産物だった。長年の紛争の結果、最後は設計・施工を担当した建設会社が自腹を切って1億円以上にのぼる修繕工事を行うことに・・・・・・。 日本建築学会建築経済委員会マンション・グループの主査であり、同マンションの顧問建築士でもある井上博氏が、紛争のてん末とともに設計者、施工者の心構えを説く。(本誌)

「マンション問題を考える会」(注)からの紹介で、Sマンション管理組合の当時の理事長、榎本正氏が私の事務所に来られたのは、昭和58年4月の初めであった。
(注)マンション問題を考える会=マンションのトラブルを解決するため、首都圏の居住者を中心に昭和51年、発足。現在は、マンション管理組合連絡協議会(電03-3462-0649)、マンション問題で行動する会(電03-3378-5747)等に分かれ、別個に活動している。
■10年続いた雨漏り、修理の繰り返し
Sマンションは、東京都世田谷区の一角、約3000坪の敷地に7棟に分かれて建つRC壁式構造3階建て、総戸数80戸のデラックス・マンションである。一戸当たりの土地所有分は約40坪、専有床面積は平均約80平方メートル。昭和49年の竣工当時の売り出し価格が、通常の2倍であったと聞いても、素直にうなずける広さだ。設計・施工を担当したのは、マンションの専門業者として有名な某工務店である。 「ところが、入居早々から雨漏りに悩まされ続け・・・」と榎本氏は、悲痛な表情で、次のような事情を説明された。
入居後、1年余りを経たころ、雨漏りにたまりかねた住民たちは、ついに住民大会を開いた。そして某工務店と販売会社、両者の部長クラスを呼んで交渉し、「雨漏りに対しては10年間、無償で修理します」という言質を取って、ホッと一安心。その後は雨漏りの都度、電話をすると防水工が駆けつけてくれるようになった。
しかし状況は一向に変わらず、雨が降るたびに次から次と新規の雨漏りが発生したり、直したはずの部屋がまた漏ったり、甚だしい家では上階のバルコニー直下の部屋で6〜7年の間に6回も漏る始末。また、写真でも分かるように、せっかくの奇麗なタイルの外壁に、無神経に黒い防水液を塗りたくるような修理が、平然を行われたのである。 こうして賽の河原の石積みのように、雨漏り→通報→修理→雨漏りを繰り返しているうちに、気が付いてみたら保証期限の10年目は、あと半年に迫っている。このまま10年を過ぎてしまったら、その後の雨漏り修繕費は、一体どうなるのだろうか……。 「不安がつのり、方々の役所や建設会社、また設計事務所などに相談したが、どこにもはっきりした返事をしてくれない。ワラにもすがりたい気持ちで来ました。ここ(井上事務所)で結論を出してもらえなかったら、もうお先真っ暗です」というのが、榎本氏の話であった。
広々とした敷地、ゆったりとした隣地間隔,緑豊富な外構・・・・・・。売り出し当初のセールス文句どおりのデラックスぶりを,ようやく取り戻したSマンション。つい先日まで、欠陥問題に揺れていた。
修繕前の外観。漏水を止めるために防水剤を塗りたくり,せっかくの美しいタイルも台なし。
漏水場所平面図(2階部分)。全棟,全階合わせると、延べ197回も漏水した。図中の●印は天井,▲印は壁の漏水個所を示す。
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